効率的なベンチプレスのバーの軌道とは

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ベンチプレスにおいて、バーの軌道は重要な要素です。

Bench Press More Now:  Breakthroughs in Biomechanics and Training Methodsという本の内容で、超一流のエリートリフターと一般レベル(一般といっても100㎏を挙上できるレベル)のリフターのベンチプレスのバーの軌道比較して考察したものをご紹介したいと思います。

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エリートリフターのバーの軌道

ベンチプレスのチャンピオン達のバーの軌道と一般レベルのリフターのバーの軌道の違いについてです。

エリートリフターも一般レベルのリフターもバーを下ろす時の軌道は大きくは違いません。

少し足側に弧を描きながら、ほとんどまっすぐボトムポジションにバーを下ろしていきます。

しかし、バーを挙上するときの軌道は大きく異なっています。

エリートリフターは最初に頭側へと戻しながら挙上し、その後はほとんどまっすぐ上げていきます。一方で、一般レベルのリフターは最初にまっすぐ挙上し、その後に頭側に戻しながら上げていきます。

ベンチプレス、バーの軌道

左:一般的レベルのリフター。中央・右:超一流のリフター。

下ろすときの軌道(赤線)は3者とも同様だが、上げるときの軌道(青線)の違いに注目。左の一般的なリフターは上げ始めが垂直。中央と右側の超一流のリフターは上げ始めに一気に頭側へ戻し、途中からまっすぐ上げている。

このバーの軌道の違いは個人個人の成長過程でも同じ傾向がみられると言われます。つまり、初心者から上級者になるにつれて、バーの軌道が一般レベルのリフターの軌道から徐々にエリートリフターのそれに近づいていくというわけです。逆にずっと同じような軌道で上げている人は途中で成長が停滞してしまうとも言われます。

ベンチプレスでの肩関節の動きの効率を決める要素

ベンチプレスの挙上重量を伸ばすためには、バーの軌道を改善することが必要だとわかりました。

ではなぜこのようなバーの軌道で挙上することが大切なのでしょうか。

これには肩関節の動きの効率が大きく関与しています。

ベンチプレスでバーを上げる時の肩関節の動きは屈曲(前方挙上)と水平屈曲です(下図)。

肩関節 屈曲

肩関節 水平屈曲この動きはどちらも三角筋前部と大胸筋の協働によって主に行われます。

このバーを挙上する動きを考える上で欠かせないのが、肩関節を支点としたモーメントです。(モーメントはエクササイズの生体力学を考える上で不可欠な要素なので覚えておくと大変便利です)

モーメントアーム支点から重りが遠くなる(モーメントアームが長くなる)と、バーを支えるのに大きな力が必要となる

簡単に言うと、肩関節からウエイトまでの水平距離が遠いと上げづらくなるし、肩関節の真上に近いと楽に上げられるということです。

ベンチプレスでのモーメントアームを規定する因子は、グリップの幅(両手の間の距離)と真横から見た時の肩関節とバーとの水平距離(下図)の2つです。

ベンチプレス,アーチ左:モーメントアームが短く効率的 右:モーメントアームが長く非効率的

グリップ幅が大きくなるほど、肩関節を水平屈曲させるためのモーメントアームが長くなります。同様に、肩関節とバーとの水平距離が長くなるほど、肩関節を屈曲(前方挙上)させるためのモーメントアームが長くなります。

最適なグリップ幅は体格によって(ボトムポジションで前腕が垂直になる幅に)決まるため、各人固有の距離に決まります。

結局のところ、バーを効率よく上げるために必要なことは、バーと肩関節との水平距離を短くすること、つまり、なるべく肩関節の真上に近いところでバーを上げることなのです。

効率的なベンチプレスのバーの軌道とは

バーを下ろす位置

バーをなるべく肩関節の真上に近いところで上げると、モーメントが小さくなり、効率が良くなることがわかりました。

ただし、話はそう単純ではありません。

かたくなに肩関節の真上でバーを動かそうとすると、肘を大きく張った姿勢になり、肩の障害(インピンジメント症候群)を引き起こしやすくなります。また、首の根元あたりにバーを下ろすことになり、バーの移動距離がかなり大きくなってしまいます。

逆に胸の上の高いところにバーを下ろすと、バーの移動距離は短くなるという点では効率は良くなります。しかし、あまりに足側に下ろすと、上記のように肩関節を屈曲する際のモーメントが大きくなってしまいます。

なるべくバーの移動距離を短くしつつ、肩関節にかかるモーメントを小さくするために、みんなベンチプレスでアーチを作っていたのだと理解できると思います。

しっかりアーチを作った場合に、多くの人にとって乳首からみぞおちの間くらいが最適なバーを下ろす位置になるかと思います。

バーの挙上

一般的なリフターの場合は、最初にほとんど垂直にバーを上げてしまいます。そしてスティッキングポイント辺りまで上げたところでようやく頭側へとバーを戻しつつ上げていきます。これでは途中までの肩関節にかかる負担が無駄に大きくなってしまいます。

エリートリフターの場合は違います。彼らはまず頭側、つまり肩関節の真上にバーを戻そうとします。これによって肩関節にかかる負担を効率よく減らしながらスティッキングポイント辺りまで上げていくことができるのです。

image青線:一般的なリフターの挙上の軌道 赤線:エリートリフターの挙上の軌道

両者の上げ始めの軌道は全く異なる。

エリートリフターは、最初に頭側へバーを戻しつつ上げることで、スティッキングポイント(最もバーへ力が伝えづらいポイント。ベンチプレスではちょうど可動域の真ん中辺り)をかなり肩関節の真上に近いところで迎えることができています。

エリートリフターはパワーの無駄が少ない

挙上できるバーの重さ、バーを下ろすときの最大の力、バーを上げるときの最大の力、バーを上げるときの最小の力(スティッキングポイントでの力)を計測し、それぞれをエリートと一般レベルのリフターで比較した実験があります。

エリートリフターは発揮された最大の力と挙上できるバーの重さの差が11~12%ほどしかなかったのに対して、一般のリフターは発揮された最大の力と挙上できるバーの重さとの間に実に35%もの差がありました。

さらにもうひとつ、エリートリフターはバーを上げるときのスティッキングポイントで発揮できる力と挙上できるバーの重さの差が4~5%ほどだったのに対し、一般レベルのリフターはその差が7~8%もありました。

image

左:一般レベルのリフター 中央と右:エリートリフター

上図がその結果をグラフにしたものです。挙上できるバーの重さ(赤)を100%としたときの、発揮できる最大の力(橙色)とスティッキングポイントで発揮された力(青)の関係を示しています。

エリートリフターはスティッキングポイントでも持てる力の最大値に近い力を発揮できているのに対して、一般レベルのリフターは持てる力の最大値とスティッキングポイントで発揮できる力とに大きな差があるのがわかります。

簡単にまとめると、「エリートリフターは持てる力の限界に近い重量を上げることができるし、スティッキングポイントでも力のロスが少ない。反対に、一般レベルのリフターは、持てる力に対して挙上できる重量が少ないし、スティッキングポイントではとくに力のロスが大きくなる」ということです。

挙上できる重量はスティッキングポイントで発揮できる力で決まる

上の棒グラフからわかるとおり、一般レベルのリフターでもエリートリフターでも実際に挙上できる重量はスティッキングポイントで発揮できる力とほとんど差がないことがわかります。どれだけ潜在的に大きな力が出せたとしてもスティッキングポイントを通過できないとベンチプレスでバーを挙上することは達成できないのです。

エリートリフターは発揮できる力の最大値と最小値の差が小さく、効率的なバーの挙上につながっています。一方、一般レベルのリフターは最大値の最小値の差が大きく、非効率的な挙上をしていることが分かります。

そして、この非効率な挙上の最大の原因がバーの軌道なのです。力を発揮しづらい軌道をとるために、挙上する力がすぐに失われていってしまうのです。

エリートレベルに近づくと、筋力の限界に近づくため、最大限発揮できる力というのはほとんど変わらなくなってきます。しかし、そのような状況でも一部のエリートリフターはさらに挙上重量を伸ばしていきます。彼らは「より効率の良い軌道でバーを挙上する」というテクニックを磨くことで、さらに挙上重量を伸ばしているのです。

実際に挙上重量を伸ばすには練習が必要

理屈の上では理想的なバーの軌道が理解いただけたかと思います。

ベンチプレス,バーの軌道

上:良い軌道 下:非効率的な軌道

ただ知っていることと、実際にそれをできるかどうかは別の問題です。

新しいバーの軌道がしっくりなじむまでは時間がかかりますし、新たな運動のパターンを体が覚えるのにも時間がかかります。ただこれも数週間から数か月間練習すればかならずできると言われます。

まずは自身のベンチプレスのフォームを真横からビデオ撮影しましょう。

そして何度もフォームを確認し、理想的なバーの軌道に近づくように練習しましょう。

最初はぎこちなく感じるはずですが、徐々に慣れてきます。そして、数か月もすれば挙上重量を伸ばすことができるようになると思います。

まとめ

  • ベンチプレスでは、バーと肩関節との水平距離が遠くなるほどモーメントが大きくなり、肩関節の屈曲が難しくなる。
  • エリートリフターはバーの挙上を効率よく行っているが、その違いはバーを上げるときの軌道の違いによって生まれている。
  • スティッキングポイントを通過する際に、なるべく肩関節の真上にバーが位置するような軌道をとることで、効率よくバーを挙上できる。
  • 理想的なバーの軌道を意識して反復練習することが重要。
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コメント

  1. 通りすがりのパワーリフター より:

    日本語で書かれたパワーリフティング関係の記事は多く見てきましたが、今まで見てきたネット記事で一番参考になりました。今すぐベンチの練習したい気分です。こんな有益な情報を公開していただきありがとうございます。

    • Yasu より:

      コメントありがとうございます。
      競技としてベンチプレスを行う選手にとっては、ベンチプレスは肉体の強さだけじゃなくテクニックも重要な要素だと気づけて面白い内容になっているかと思います。
      詳しい内容はstrengtheory.comというサイトでぜひ参照していただければと思います。