パフォーマンス改善のためのトレーニングの目的は、ストレス理論でいうところの「疲労期」に至ることなく適応を促すことです。適切なプログラムは、ボリュームと強度をコントロールすることで、この目的を達成するようデザインされています。ボリュームと強度の理解はトレーニングプログラムをデザインする上で不可欠です。
ボリューム(volume)
ボリュームとは、1回または1グループの複数回のワークアウトで扱う重量の総量です。
- ボリューム=反復回数×ウエイト
例
使用重量 | 100㎏ | 100㎏ | 100㎏ |
反復回数 | 5回 | 5回 | 5回 |
1セットのボリューム | 500 | 500 | 500 |
ワークアウトのボリューム | 1500 |
この計算を各種目で行います。
このようにして、ストレスの総量を数値化できるようになります。通常はウォームアップセットは除いてワークセットのみの重量をボリュームとします。なぜなら、ホメオスタシスを乱すためのストレスとなるのはウォームアップではなくワークセットだからです。ただ、ウォームアップだけでもある程度のボリュームがあるため、かなり多めにウォームアップする場合はそれもトレーニングのボリュームに影響を及ぼすことを覚えておきましょう。
強度(intensity)
強度とは、1回、または1グループの複数回のワークアウトで扱う重量の平均が、1RM(最大挙上重量)の何%に相当するかで表されます。
- ボリューム/ 反復回数 = 平均使用重量
- 平均使用重量 / 1RM × 100 = 強度 (% intensity)
上と同じ例を使ってみます。
ここでは最大挙上重量(1RM)が125㎏だったとします。
使用重量 | 100㎏ | 100㎏ | 100㎏ |
反復回数 | 5回 | 5回 | 5回 |
1セットのボリューム | 500 | 500 | 500 |
ワークアウトのボリューム | 1500 |
平均使用重量=1500÷15=100㎏
強度=100÷125×100=80%
ここでも通常はウォームアップセットは計算には入れません。ちなみにウォームアップセットも計算に入れると、かなり数値が低下します。
上記のように、強度は1RMに対する相対値で表されます。使用重量が1RMの80%は同50%よりも高い強度ということになります。
ちなみに、つまるところ「強度」とは、最大の力のうちのどのくらいの力を発揮するかという指標であり、曖昧で意識しづらいものです。反復回数やRPE(the Borg Rating of Perceived Exertion scale)は意識しやすい指標ですが、これらは主に疲労の尺度です。有酸素運動のような持久力を高めるための運動では、強度が低いため、疲労は良い指標となりますが、 筋力トレーニングにおいては最適ではありません。なぜなら疲労は量として表しづらく、コーチやトレーニー自身や研究者が、その強弱を判断しづらいのです。その点、%1RMは具体的で客観的に判断しやすい指標です。とくにコーチやトレーナーのように、多くの人のためにトレーニングプログラムを立て、成長を判断する必要がある人にとっては実用性が高いのです。
強度とレップレンジとの相関
強度は、1セットあたり何回を目標とするか(レップレンジ)と相関しています。
強度が高くなるほど反復できる回数は減り、逆に強度が低いと反復できる回数は増えます。
では、1セットあたり何レップを目標に設定するのが良いのでしょうか?
概説すると、
- 高強度(低反復回数)は最大筋力強化
- 中程度の強度(中程度の反復回数)は筋肥大効果
- 低強度(高反復回数)は持久力向上
という関係になります。より具体的には、以下の表のようになります。
最大反復可能回数 | %1RM | 主な効果 |
1-5 | 100~85 | 最大筋力強化 |
5-8 | 85~80 | 最大筋力強化も筋肥大効果も同程度 |
8-10 | 80~75 | 筋肥大効果+いくらかのパワー強化 |
10-12 | 75~70 | 筋肥大効果+いくらかの持久力向上 |
12-15 | 70~65 | 持久力向上+いくらかの筋肥大効果 |
15-20 | 65~60 | 主に持久力向上 |
ただし、例えば低強度では、全く筋肥大に役立たないかというとそういうわけではありません。上記は、その目的にとって最適な範囲というだけであり、変化をつけるためにも様々な強度でセットを組むことは大切なことです。
最大筋力は、単純な筋肉のサイズだけでなく、全身の力の出し方のバランスなど、神経系やテクニックが重要な要素を占めるため、基本的には高強度メインで鍛えるべきです。一方、筋肥大を目的とする場合には低強度から高強度まで満遍なく取り入れることが有効です。
- 最大筋力強化 1-8レップ
- 筋肥大 5-12レップを主体に3-5レップや12-15レップを時折混ぜる
- 持久力向上 12-20レップを主体に8-12レップを時折混ぜる
種目ごとの強度の相性
スクワットやオーバーヘッドプレスなどの全身の筋肉を動員する種目は高めの強度が、ダンベルカールやダンベルフライなどの単関節種目は低めの強度が相性が良いです。
また、ワークアウトの前半に行う種目は高めの強度が、後半には低めの強度が適しています。
イメージとしては、その日のワークアウトのメインとなる種目は最初に疲労のない状態で高めの強度で行い、補助種目はワークアウトの後半に低めの強度で丁寧に行う、という感じです。
RPE(Rate of Perceived Exertion:主観的運動強度)について
RPEは、どれくらいの疲労が溜まったかを数値化したもので、運動強度の尺度のひとつです。
もともとは有酸素運動ですが、筋力トレーニングにも応用されています。
RPE | しんどさの指標 |
1~4 | 軽微な労力で軽く動作できる |
5~6 | あと4~5回は反復可能 |
7 | 絶対あと3回反復可能 |
7.5 | あと3回何とか反復可能かもしれない。 |
8 | 絶対あと2回反復可能。 |
8.5 | あと2回何とか反復可能かもしれない。 |
9 | 絶対あと1回反復可能 |
9.5 | あと1回反復可能かもしれない。 |
10 | これ以上は続けられない |
RPEのメリット:体にかかるストレスの自己制御が可能
体調は日によってまちまちです。疲労が全くない状態と疲労した状態では、全く同じ重量でも反復できる回数には差があります。そこで、疲労度で反復回数を調整することで、体にかかるストレスを調子の良し悪しに関わらず一定にすることが可能になります。
RPEのデメリット:自分の疲労度を正確に感知することが必要
この指標はある程度トレーニングの経験を積んでいる人にしか使えません。というのも初心者は、自分の疲労度を正確にスケーリングすることができないからです(初心者は往々にして実際よりも自分は疲労していると感じてしまいます)。
RPEの使い方
基本的には、本番のトレーニングでは、各セットRPE9(確実にあと1レップできる)を目標にします。ちなみに、動作のスピードがゆっくりになり、フォームにほころびが出てくる辺りがRPE9です。常に1レップ分の余裕は残しておくことで、オーバートレーニングを予防します。
例えば6-8レップを目標のレップレンジとしたら、その範囲内で疲労度がRPE9になるような重量設定をする、ということです。
また、デロード期間中など、負荷を弱める日にはRPE7(まだまだスイスイ動作できる程度)でストップします。
オールアウト(train to failure)は諸刃の剣
RPE10、すなわちオールアウトは、確かに筋肥大効果を増す可能性はあります。とくに、20RM以下の低強度で行う場合は、オールアウトすることは筋肥大のためにはある程度必要です。
ただし、オールアウトは、筋肉だけでなく神経系にも多大なストレスをかけるので、オーバートレーニングをもたらすリスクが高く、注意が必要です。とくに高強度で行う種目や、スクワットやデッドリフトなどの多関節種目はオーバートレーニングをもたらすリスクが高いため基本的にはオールアウトするまでは追い込みません。
また、1セット目からオールアウトすると、次以降のセットのボリュームが犠牲になってしまいます。ボリュームは最も優先すべき筋肥大の要素なので、もしオールアウトをしたい場合は、最終セットのみにしましょう。
- オールアウトは筋肥大を促す効果がある。
- 導入する場合は、低強度で行う単関節種目の最終セットのみにする
ボリュームと強度の調整
トレーニングで身体にかけるストレスは、ボリュームと強度を変えることで調整します。
ピリオダイゼーションでは、期間ごとにボリュームと強度を、トレーニーのレベルに応じて調整します。
初級者は、直線的に使用重量を増やすことでボリュームが増えていきます。それによってパフォーマンスも直線的に伸びていくことになります。
中級者以降はボリュームと強度に強弱をつける必要があります。これによって波を打つようなパターンでパフォーマンスを伸ばしていくことになります。
ボリューム・強度とオーバートレーニング
有酸素運動と、ウエイトトレーニングのような無酸素運動では、オーバートレーニングをもたらす刺激が異なります。
有酸素運動では、刺激を高めようとすると、ボリュームがかなりの量になります。一方、長時間連続して続けられる運動となると強度はどうしても低め(最大筋力の30〜40%ほど)で限界となるため、ボリュームに比べると強度はあまり重要にはなりません。有酸素運動でオーバートレーニングになる場合、ほとんどはボリューム過多が原因です。
これに対して、筋力トレーニングでは、ボリューム・強度のいずれもオーバートレーニングになる原因となりえます。ほとんどのプログラムは、ボリュームも強度もどちらも変動させるため、一般的には両方の要素が重なりあってオーバートレーニングになることが多いです。
強度過多とボリューム過多によるオーバートレーニングからの回復法をどちらも知っておくことは重要です。強度過多の場合は神経系の働きが乱れ、それによって筋力の発揮が妨げられるというもので、回復は比較的早いです。ボリューム過多の場合は筋組織の収縮系と代謝系の障害が最大の原因であり、回復には時間がかかります。
オーバートレーニングの基本的な治療因子は時間とトレーニング負荷の軽減です。しかし、負荷を減らしたままでいることは、パフォーマンス向上のためには時間の浪費に他なりません。進歩が得られないばかりか、現状維持すらできないこともありえます。このようにオーバートレーニングの代償は重大です。裏を返せば、オーバートレーニングに陥らないようにすることは大変重要ということです。そのためには、トレーニーのレベルに合わせた適切なトレーニングプログラムが必要です。単純なリニアプログレッションのプログラムは、成長が速い初心者の時期には適していますが、トレーニーのレベルが上がるにつれて、より複雑なピリオダイゼーションを取り入れたプログラムが必要になってきます。
ボリュームを増やしていくことこそが成長のポイント
ボリュームの多寡が筋肥大のために最も重要な因子であることがわかってきています。筋肥大するほど、基本的には筋力も増していくので、筋力を高めるためにもボリュームは重要な要素です。パワーリフターやウエイトリフターなど、1RMを最大限高める場合は強度の重要性は増しますが、一般的なスポーツや見た目のためのトレーニングであれば、怪我のリスクもあるので、そこまで強度を追い求める必要はありません。
ある程度以上(20RM以上くらい)の強度であれば、強度が低くても高くてもトータルのボリュームが同じであれば同様の筋肥大効果が得られるということがわかっています。
ただし、ボリュームは無限に増やせるわけではありません。ボリューム過多になればオーバートレーニングに陥ります。
ボリューム重視のトレーニング(いわゆる「筋肥大トレーニング」)の目安としては、
- 70~85%くらいの強度(6~12RM)を主体として、
- 大きな筋肉(胸、背中、大腿四頭筋、ハムストリングス)は、1回のトレーニングで約30~60レップ、週に約60~120レップ
- 小さな筋肉(肩、上腕、下腿、腹筋)は、1回のトレーニングで約15~30レップ、週に約30~60レップ
を目標にするのが良いでしょう。
コメント
いつも参考にさせて頂いています。
ボリュームについて質問があります。
週1回スクワットを50㎏で10回6セットやると50×10×6でボリュームは3000になると思います。例えばですが週2回スクワットをやることとして、1回で50㎏を10回3セットやった場合、ボリュームは50×10×3で1500。それを週2回なので1週間で3000になると思います。この場合、週1回と週2回でボリュームは等しくなりますが、筋肥大に関して効果はあまり変わらないでしょうか?
質問ありがとうございます。
週3回と6回で、そのようにボリュームを揃えて同じ効果だったという研究は見たことはありますが、週1回と週2回では、頻度が少なすぎることがボトルネックになって差が出る可能性があるかもしれません。