乳酸は疲労の原因物質ではなくエネルギー源

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乳酸が溜まったから疲労したというのはこれまで長く信じられてきた話ですが、近年これは実は正しくないということがわかってきました。これまで正しいと思われていた考え方が、ここ最近の研究でどのように変わってきたのかまとめてみました。

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運動時のエネルギー代謝

運動時は主に糖と脂肪が使われます。

エネルギー源としての糖の特徴

主にグルコース(ブドウ糖)と、グルコースが鎖のように連結して集まったグリコーゲンがエネルギー源として使われます。

消化吸収されたグルコースは、使用されないときはグリコーゲンとして筋肉や肝臓で貯蔵されています。グリコーゲンは必要時にはグルコースに分解されて、エネルギー源として利用されます。

グルコースは、水に溶けるので血液に溶けて体中を移動しやすいという特長があります。また、大きさ(分子量)が小さいので、分解もしやすく、素早くエネルギーを産生したい場合に最適なエネルギー源です。

その反面、貯蔵には水分を必要とするため、体内で貯蔵されているエネルギー量としては脂肪より少ないです。

糖は使いやすいが貯蔵しづらいエネルギー源といえます。

エネルギー源としての脂肪の特徴

エネルギー源としての脂肪は、グリセリンに3つの脂肪酸がくっついた中性脂肪というものです。

脂肪は、血液を介して運搬するにも、エネルギーとして利用するにも手間がかかります。

脂肪酸に分解後に、数々のたんぱく質の仲介によって細胞内のミトコンドリアへと運搬され、TCA回路にてATPというエネルギーを生み出せるのです。

脂肪は、貯めておくには適しているが、使うには手間がかかるエネルギー源だといえます。

乳酸は糖からつくられる

mito上の図は運動時のエネルギー産生の概略です。図の右上の方に、解糖系といって、グルコースからピルビン酸とATPがつくられる反応があります。

解糖系で作られたピルビン酸は、さらにアセチルCoAとなりミトコンドリアに取り込まれて、TCA回路という多量のATPを生み出す反応に使われます。

ここでポイントになってくるのが、解糖系とTCA回路との速度の差です。解糖系は速度が速いのですが、TCA回路は途中の反応の数が多いなどの理由から時間がかかります

安静時にはこの処理速度の差はあまり影響がないのですが、強度の高い運動をして、多量の糖を一気に使ってエネルギーを産生するときには影響が出てきます。すなわち、中間産物であるピルビン酸が処理しきれないということが起こってしまうのです。

ここで登場するのが乳酸です。処理しきれなくなったピルビン酸から乳酸がつくられます。

乳酸について最近わかってきたこと

「無酸素運動だから乳酸ができる」は誤り

以前は、酸素があれば(すなわち有酸素運動ならば)ピルビン酸はミトコンドリアでのTCA回路に利用されるし、酸素がなければ(すなわち無酸素運動ならば)ミトコンドリアが働かないためピルビン酸からは乳酸がつくられると信じられていました。

しかし血中の酸素濃度は、たとえ心肺停止状態にあったとしてもしばらくはゼロになることはありません。

近年は酸素の有無によって二者択一でピルビン酸以下の経路が決まるわけではないことがわかってきています。

実はこれまで無酸素運動と呼ばれていた短距離走の最中でも、ミトコンドリアでのエネルギー産生は行われています。ただ、ミトコンドリアでの処理能力が遅いために、解糖系を経て作られるピルビン酸の量に追い付かないだけなのです

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運動開始直後から有酸素系は働いている

処理できない分のピルビン酸からは乳酸が作られるので、強度の高い運動で短時間に多量のエネルギー産生を要する場合には乳酸が増えるのです。

乳酸は老廃物ではなくエネルギー源

以前は、乳酸はエネルギー産生によってできた後の燃えカスのような存在と考えられていました。

自分も高校の生物の授業で、「酸素がないとTCA回路以降の反応が進まず、乳酸ができてしまいます。その場合ATPは2つしかできず、エネルギーの効率は非常に悪いですね」、と教えられました。

でもこれっておかしくないですか?ダッシュみたいにしんどいことをしてもATPは2つしか得られないのに、ジョギングならATPが38個も得られるって。(当時は、だからダッシュしたら疲れが大きいのか、程度にしか思わなかったですが)

この謎がようやく解けました。

乳酸ができた後にもさらにエネルギー産生へと続く道があったのです。

最近の考え方では、乳酸シャトル説といって、主に速筋でつくられた乳酸は、血液を介して遅筋や心筋に運ばれ、そこのミトコンドリアに取り込まれてエネルギー源として使われているということがわかってきています。

また、同じ筋細胞の中でも、まず糖がエネルギー源として使われ、その後に乳酸が使われるということもわかってきています。

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link_fig001乳酸シャトル説:速筋で作られた乳酸が遅筋や心筋に運ばれ利用される

また、Cori(コリ)回路といって筋肉で糖から作られた乳酸が、肝臓に取り込まれて再度乳酸から糖に変えられるというのはこれまでも知られていたことです。

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Cori回路:乳酸は肝臓で糖に再合成される

使いきれなくなった糖は、乳酸に形を変えて、他の細胞で使ってもらっていたということです。

乳酸が溜まるから疲労するのではない

かつては、乳酸が溜まることで疲労すると理解されていました。

その理由は、収縮を繰り返した筋肉では乳酸の濃度が高まっていたからです。

しかし、実際は乳酸が溜まっているから疲労したのではありません。乳酸の濃度の上昇は単なる結果にすぎず、これまで考えられていたほど疲労との直接の関係はなかったのです。

乳酸産生には糖が必要ですが、マラソンの終盤など、体内の糖の貯蔵が低下した状況では乳酸産生も低下することが知られています。しかし、乳酸があまり作られなくてもマラソン終盤で疲労が起こっていることは明らかです。

また、乳酸により、体液が酸性になることとが疲労の原因ではないかという考えもありますが、体内にはいくつもの仕組みによってpHを一定に保つ仕組みがあり、容易に極度の酸性の状況になることはありません。また、かなり酸性の状況下では、筋収縮力が低下するとされていますが、それも疲労とはあまり関係がないということもわかってきています。

現在、疲労の原因としていろいろな要素が挙げられています。リン酸とカルシウムの結合による筋収縮力の低下や、糖の枯渇や、細胞内外でのナトリウムとカリウムのバランスの変化などです。また、実際に疲れたと感じるのは脳ですが、脳内のA10神経系と呼ばれる回路と疲労との関わりも指摘されています。最近は疲労因子と呼ばれるタンパク質も見つかっているようです。この分野はまだまだ議論や研究の余地がありそうです。

乳酸のはたらき

乳酸は筋細胞内からカリウムが漏れ出て、収縮力が低下するのを防止する働きがあります。これまで疲労物質と呼ばれていた乳酸に、実は疲労を抑える効果があることがわかったというわけです。

また、乳酸にはほかにもミトコンドリアを増やす働きがあることが分かっています。ミトコンドリアが増えることで、脂肪をエネルギー源として使う能力が向上するため、体内の糖が枯渇しづらくなり、持久力が高まることにつながります。

他にも、血管新生を促したり、傷の修復を促したり、遺伝子発現を亢進させたり、心筋保護をしたりといった効果があることもわかっています。これらはどれもトレーニングに対して体を適応させるのに適しています。

まとめ

乳酸についての研究で、これまで正しいと考えられていたことがどんどん変わってきています。

乳酸が溜まるから疲労するわけではないこと、乳酸はエネルギー源として利用されていること、疲労についてはまだまだ解明されていない部分があることなどがわかりました。

普段血中の乳酸濃度を計ったりするわけではないので、今回の記事の内容を直接日々のトレーニングに活かすのは難しいかもしれませんが、今後の研究結果次第で、トレーニング理論が大きく変わってくることもありそうです。

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