筋電図の結果からみた最適なベンチプレスの方法とは

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ベンチプレスには様々なバリエーションがあります。通常のフラットベンチで行うバーベルベンチプレスでも、グリップ幅・体の傾きなどはベンチプレスの主動筋(大胸筋、三角筋前部、上腕三頭筋)に影響します。また、バーベルを使うか、ダンベルを使うかでも変わってきます。今回はこれらの要素について過去の研究結果をまとめたものを紹介したいと思います。

引用元:http://thesportjournal.org/article/optimizing-development-of-the-pectoralis-major/
Miguel Jagessar and Michael Gray, Academy of Sport and Leisure, The University of Trinidad and Tobago, Trinidad, West Indies.

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はじめに

ベンチプレスは上半身、とくに大胸筋の強化のために行われる主要な種目のひとつです。競技能力の向上や見た目の改善のため、多くのアスリートや趣味トレーニーが大胸筋を鍛えています。パワーリフターは少しでも重たい重量を挙げられるように、ボディビルダーは最大の筋肥大が得られるように、それぞれの方法でワークアウトをおこなっています。

ベンチプレスの主動筋は、大胸筋、三角筋前部、上腕三頭筋です。

ベンチプレスの主動筋

それぞれが互いに協働してウエイトを動かしています。ベンチプレスのバリエーションは主動筋の働きに影響を与えます。大胸筋の上部と下部を総合的に発達させるために、目的に応じて、ベンチプレッサーはこれらのバリエーションを利用しています。

大胸筋の解剖。いわゆる上部は「鎖骨部」、いわゆる下部は「胸肋部」という名称

大胸筋鎖骨部(上部)は、起始部は鎖骨内側の前面、停止部は上腕骨近位部です。大胸筋胸肋部(下部)の起始部は胸骨外側から第2〜7肋骨弓、外腹斜筋腱膜です。このように複数の付着部をもつため、ベンチプレスのバリエーションを利用することで、異なる部位をターゲットにすることが可能になると考えられます。
大胸筋は、肩関節において上腕を屈曲、内転、内旋させることが第一の働きであることを覚えておくべきです。しかし、上部も下部も内転や内旋は同じように主要な働きであるのに対して、下部は屈曲にはあまり関わっておらず、むしろ伸展するように作用します。

ベンチプレスのバリエーションには、バーベルを使うかダンベルを使うか、体幹の角度(インクライン、フラット、デクラインで行うか)なども含まれます。バーベルを使う場合は、グリップ幅をワイド(広い)からナロー(狭い)のどの辺りにするかも変わります。体幹と腕の位置を変えることで、各主動筋への刺激が高まったり低下したりします。Barnett, C., Kippers, V., & Turner, P. (1995) は、グリップ幅が狭い方が、広い場合よりも上腕三頭筋長頭への刺激が高まることを示しました。多くの人が大胸筋の全体的な発達のためには、1つないしはそれ以上のバリエーションをつけてベンチプレスをするべきだと考えています。

以下、どのバリエーションが大胸筋の発達のために最適かを考えていきます。

ベンチプレスの動作

Algra, B. (1982)はバーベルベンチプレスのスタートポジションおよびボトムポジションでの筋肉の働きを下のようなイラストに描いています。 


バーのバランスをとるため、まずリフターは目線の真上にバーが位置するようにベンチに横たわります。ここではまだバーはラックで支えられています。 背部と臀部はしっかりベンチに固定されます。

バーを下ろす直前に大きく息を吸い込みます。バーを下ろす時も上げる時もバーの動きはコントロールされていなければなりません。

胸の上でバーをバウンドさせるのは胸郭を痛める可能性があるとともに、主動筋への負荷を減らすので、このようなチーティングは避けましょう。

バーの軌道は自然な弧を描きますが、大胸筋に焦点を当てて負荷をかける場合は垂直に近い軌道になります。

もう1つのチーティングは、背部で極端なアーチを作り、お尻がベンチから浮くものです。これも椎間板の損傷を防いだり、筋肉を効率的に働かせるために避けるべきです。 

Duffey, M. J., & Challis, J. H. (2007) は初心者用トレーニングプログラムの初期においては神経系を適応させるため、筋肉を疲労させることよりも、正しいテクニックを身につけさせることが重要であることを強調しています。

グリップ幅

ここでは「バーを握った時の人差し指の間の距離」をベンチプレスにおけるグリップの幅とします。 適切な動作でバーが胸に着いたとき、前腕が床と垂直になるようなグリップ幅にするべきです。大胸筋の発達に最適なグリップ幅はどのようなものでしょうか?

グリップ幅と主働筋の活動

Clemons, J. M., & Aaron, C. (1997) は筋電図を使って、フラットベンチプレスの収縮期における筋肉の活動を、様々なグリップ幅で調べました。

肩幅=肩峰から肩峰までの距離

肩幅(=肩峰から肩峰までの距離)の100%, 130%, 165%,190% (これらをそれぞれG1, 2, 3, 4とします) の4つの幅で調べました。それぞれの筋肉の活動の中央値(Mean integrated myoelectric:MiEMG) は、意識的に収縮させたときの数値に対する割合(max volitional isometric contractions:%MVIC)で標準化されました。対象は、大胸筋・三角筋前部・上腕三頭筋・上腕二頭筋でした。

その結果、G1,G2とG4との間では大きな違いが示されました。G4において、主動筋全体における最大の活動(%MVIC)が得られました。主動筋ごとの%MVICは、低い方から、上腕二頭筋、大胸筋、三頭筋前部、上腕三頭筋の順でした。 グリップ幅を変えても、これらの筋肉の活動度の順に違いはみられませんでした。

このことについては、他の研究で反論を述べているものもあります。しかし、G4で主動筋が最大の活動を示したことから、G4が最も良いグリップ幅だという結果が示されたのは明らかでした。
著者らは、ベンチプレスで良いパフォーマンスをするために、もしG4が合わなければ、G3からG4の間のいずれかのグリップ幅を採用するよう提案しています。
Clemons, J. M., & Aaron, C. (1997) は、最適なグリップ幅を決める方法についても述べています。まず、仰向きに寝た状態で、上腕を90度外転し、肘を90度に屈曲し、その状態でバーを握るという方法です。この方法だと、G4に近いグリップ幅になるはずです。ただし、このグリップ幅は、ベンチプレスのパフォーマンスを最大化してくれますが、大胸筋の発達を最大化するとは限らないことに注意してください。

グリップ幅とそれぞれの部分ごとの活動

Barnett, C.(2005) らは、肩幅の100%および200%のグリップ幅において、ベンチプレスのバリエーション種目での筋電図での活動度を調べました。対象は、大胸筋胸肋部・大胸筋鎖骨部・三角筋前部・上腕三頭筋長頭・広背筋の5つの筋肉でした。その結果、大胸筋胸肋部はワイドグリップのフラットベンチプレスで最大の活動を示しました。また、大胸筋鎖骨部は狭いグリップ幅でより高い活動を示しました。
Lehman, G. J. (2005) はフラットベンチプレスでグリップ幅をワイド(肩幅の200%)からナロウ(肩幅の100%)へと狭めていくと、上腕三頭筋の活動が高まり、大胸筋胸肋部の活動は低下していくことを示しました。 

体幹の傾き

インクラインベンチプレスは鎖骨部に効き、フラットベンチプレスは胸肋部に効くという考えが一般的ですが、実際はどうでしょうか?


Barnett, C.(1995) らは、フラットでもインクラインでも筋電図上は鎖骨部の活動に有意な差はないことと、デクラインにすると鎖骨部の活動は最小になることを示しました。胸肋部はフラットベンチプレスで最も活動が高まりました。
Glass, S. C., & Armstrong, Ty. (1997) の筋電図の結果はBarnett, C.(1995)らの報告とは矛盾するものでした。インクラインとデクラインでは、大胸筋上部に有意な違いはみられませんでした。しかし、大胸筋胸肋部の下部において、インクラインとデクラインの間に有意な差がありました。著者は、この違いは、自分たちの実験では大胸筋のより下部の活動を調べたことに起因すると推測しており、そのため、デクラインベンチプレスは胸肋部の下部の発達には適しているものの、全体の発達には適していない、としています。グリップ幅が実験対象者の間で統一されていなかったことについては論じられておらず、このことが結果の違いに影響を与えた可能性もありえます。

ダンベルかバーベルか?

ダンベルベンチプレスが大胸筋の発達に最適だというトレーナーもいます。その理由として、ダンベルだとより大きな可動域が得られるため、最大限大胸筋を収縮および伸展させることができるということが挙げられます。一方で、ダンベルよりも高重量を扱えることから、バーベルベンチプレスが最適だというトレーナーもいます。高重量はより強く大きな筋肉の発達につながります。

Welsch, E. A., Bird, M., & Mayhew, J. L. (2005) はバーベルベンチプレスとダンベルベンチプレスとダンベルフライにおいて、大胸筋が収縮する時の筋電図の活動と活動時間の違いを調べました。活動時間は、収縮期全体の時間に対する筋肉の収縮時間の割合で比較されました。
3つの種目の間で筋肉の活動には有意な差はみられませんでした。また、ダンベルフライでは筋肉の活動時間が他の2種目に比べて有意に短いこともわかりました。

これらの結果から、

  • ダンベルフライはあくまで補助的な種目である
  • ダンベルベンチプレスとバーベルベンチプレスは同等の種目としてプログラム内で相互に代用可能である

と結論されました。

議論の残る要素

正しい方法でベンチプレスを行うことは、ターゲットの筋肉の発達や怪我の予防に重要である、とAlgra, B. (1982).は述べています。過去の文献では、いくつかの要素はベンチプレスの方法論の要素として考えられてはいませんでした。これらのうちのいくつかは、今日では以下のように述べられています。

肩甲骨の位置

1つめの要素は、肩甲骨の位置です。肩甲骨の正しい位置は、後下方へ引き寄せられた位置です。この位置だと、肩関節が安定します。ベンチプレスでは、このポジションを取ることにより、安定した土台ができ、動作中に胸を張った姿勢を保つことが可能になります。この姿勢ができているかが、ベンチプレスの筋電図の実験では大切です。これができていないと、大胸筋へかかるべき負荷を三角筋前部と上腕三頭筋を使って押すことになるからです。これでは胸筋の発達が十分得られません。また、このポジションが決まっていなければ、ベンチプレスの主動筋の筋電図の活動も影響を受けてしまいます。

上腕(すなわち肩関節)の外転の角度

2つめの要素は、上腕(すなわち肩関節)の外転の角度です。グリップ幅を肩幅の2倍以上にすると外転は75度を超え、肩幅の1.5倍未満に保つと外転は45度以下になる、とFees, M., Decker, Snyder-Mackler, L., & Axe, M. J. (1998)は述べています。外転の角度はグリップ幅に応じて、挙上しやすいように自然に変化します。この角度を変えることによって、特定の筋肉へ負荷をかけることができます。ボディビルダーは大胸筋に負荷がかかるような角度を保とうとします。狭いグリップ幅で、三角筋側部を使って上腕を90度まで外転させます。肘が前後左右にブレないことが重要になります。

脊椎のポジション

3つ目の要素は、脊椎のポジションです。ベンチプレスは脊椎をフラットにした古典的なフォームでも、自然なアーチを作っても、過度なアーチを作っても行うことができます。

過度にアーチを作ることは、下部脊椎の怪我に繋がる可能性があるとAlgra, B. (1982) は指摘しています。アーチの度合いについても、筋電図の実験結果に影響を与えるため、標準化が必要です。

実践への応用

過去の実験結果から、大胸筋の発達のために以下のことが勧められます。

  • バーを上げるときも下ろすときも、バーの動きをコントロールすること
  • バランスを保ち、バーを胸の上で弾ませないこと
  • 背部と臀部はベンチのパッドにしっかり固定すること
  • 下部脊椎の過度なアーチを作ることは避けること
  • グリップ幅(人差し指の間の距離)は肩峰から肩峰の長さの165〜190%にすること
  • フラットベンチプレスは、大胸筋胸肋部および鎖骨部のどちらの発達にも有効
  • グリップ幅を狭めた(肩峰間距離の100%)ベンチプレスは大胸筋鎖骨部の上部の発達に有効
  • 停滞の打破のために、ダンベルとバーベルはメイン種目として相互に入れ替えて良い
  • ダンベルフライは補助種目として使うべき

肩甲骨や肘や下部脊椎のポジションは筋電図の実験では標準化される必要があります。これらのポジションの影響については、さらなる研究結果を待つ必要があります。これらは今後、より効果的なベンチプレスのためのパラメーターになるかもしれません。

参考文献
Algra, B. (1982). An in-depth analysis of the bench press. National Strength and Conditioning Journal, pp. 6-72.
Barnett, C., V. Kippers, & Turner, P. (1995). Effects of variation on the bench press exercise on the EMG activity of five shoulder muscles. J. Strength Cond. Res., 9, 222-227.
Clemons, J., & Aaron, C. (1997). Effect of grip width on the myoelectric activity of the prime movers in the bench press. J. Strength Cond. Res., 11, 82-87.
Duffey, M. J., & Challis, J. H. (2007). Fatigue Effects on bar kinematics during the bench press. J. Strength Cond. Res., 21(2), 556-560.
Fees, M., T. Decker., L. Snyder-Mackler, & Axe, M. J. (1998). Upper extremity weight-training modifications for the injured athlete: A clinical perspective. Am. J. Sports. Med., 26, 732–742.
Glass, S. C., & Armstrong, T. (1997). Electromyographical activity of the pectorialis muscle during incline and decline bench press. J. Strength Cond. Res., 11, 163–167.
Green, C. M., & Comfort, P. (2007). The affect of grip width on bench press performance and risk of injury. Strength and Conditioning Journal, 5, 10-14.
Lehman, G. J. (2005). The influence of grip width and forearm pronation/supination on upper-body myoelectrical activity during the flat bench press. J. Strength Cond. Res., 19, 587–591.
Payton, C. J., & Bartlett, R. M. (Eds.). (2008). Biomechanical Evaluation of Movement in Sport and Exercise: The British Association of Sport and Exercise Sciences Guidelines. Oxon: Routledge.
Welsh, E. A., Bird, M., & Mayhew, J. L. (2005). Electromyographic activity of the pectoralis major and anterior deltoid muscles during three upper body lifts. J. Strength Cond. Res., 19, 449–452.

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