スクワットはいったいどこまで深くしゃがむのが正解なのか。これについては色々な議論がされており永遠のテーマとも言える議題のひとつかと思います。
今回はその問いに対するひとつの意見について紹介したいと思います。
スクワットにおける適切な深さとは
今回の内容は主に下の動画の内容の概要を引用しています。
スクワットはいったいどこまでしゃがむべきか。
あなたはどこまでスクワットの時に深くしゃがめるだろうか?
アストゥーグラススクワット(ass to grass squat=文字通りお尻が地面に着くくらい深くしゃがむスクワット。フルスクワットやフルボトムスクワットとも呼ばれます。今回記事では以下ではATGスクワットと略します)は唯一の方法だろうか?
ワイドスタンスのパラレルスクワットはチーティングなのだろうか?
スクワットの深さについて語ることは宗教の信仰について語るようなものだ。
多くの人にとって、ある方法こそが唯一の方法であり他の方法を試そうとはしない。ある人はATGスクワットこそが唯一の方法だというし、またある人はATGスクワットは不要だという。
しかしそれではスクワットの効果を限定してしまう恐れがある。
ATGスクワットとパワーリフティングスタイルスクワットの2つのスクワットについて長所と短所をまとめてみようと思う。
アストゥーグラススクワット(ass-to-grass squat:ATGスクワット)
フルボトムスクワットやフルスクワットと呼ばれるスタイル。主にハイバースクワットと呼ばれるバーをかつぐ位置が高いスタイルのことが多い。膝を大きく曲げ、体幹が直立に近いのが特徴。お尻が地面に着くくらい目いっぱい深くしゃがむ。
ATGスクワットの長所
脚部全体の発達に効果が大きい
ATGスクワットはパワーリフティングスクワットに比べて動作の幅が大きく、その分動作後の筋肉の焼けつく感じが強い。それは多くの場合において、より強く筋肥大や筋肉の成長を促すことにつながる。これは多くの人にとって利点である。
ボトムポジションで跳ね返りによる反動が使える
ボトムポジションで完璧なタイミングで反動をうまく使うことにより、スクワットの反復回数を伸ばすことができるようになる。
初心者にはあまりうまい方法ではないが、慣れるにしたがってこの反動を使う恩恵に預かれるようになるだろう。
全体的な競技能力の向上や精神的強さが得られる
著者自身の個人的意見だが、競技能力、バランス調整能力、柔軟性、精神的強さはATGスクワットでこそより鍛えられる。
ATGスクワットの短所
屈辱に耐える必要がある
ATGスクワットではパワーリフティングスクワットほど高重量を扱えない。(これは実際には悪いことではないが)
筋肉の緊張を保つのが難しい
とくにしゃがむスピードが速い場合はハムストリングスの緊張を保つのが難しい。
ローバースクワットをする場合、後方へしゃがんでいくわけだが、途中まではハムストリングスに負荷がかかっていく。しかしあるポイントを超えて深くしゃがんでいくと膝が前方に出るような力が働く。ここでハムストリングスへの負荷が抜け、大腿四頭筋に負荷が加わる。(これは大腿四頭筋の力を使って拳上するリフターには有利なのだがそれはまた別の話)
パワーリフティングスクワット
足幅を広くし、股関節が膝蓋骨の高さより少しだけ低い位置までしゃがむスタイル。
膝関節は90度くらいまでしか屈曲しないのが特徴。多くはローバースクワットというバーを担ぐ位置が低いもので、ATGスクワットに比べると股関節の関与が大きく、体幹がやや前傾していることが多い。
パワーリフティングスクワットの長所
より高重量を扱える
動作の幅が少し狭まるため、ATGスクワットより高重量を扱えることが多い。
筋肉の緊張を保つのが容易
ハムストリングスの緊張が解ける点まで深くしゃがみこまないため、ハムストリングスから下背部の緊張が解けづらい。
パワーリフティングスクワットの短所
跳ね返りの反動が使えない
筋の伸張反射は利用できるが、跳ね返りの反動の力は利用できない。
スポーツに活かすことができないかもしれない
ウェイトリフティング、クロスフィット、ラグビーなどの実際のスポーツにおける競技能力向上に役立つかは疑問。(詳細は後述)
一貫して十分な深さまでしゃがめているかの評価が難しい
ATGスクワットはハムストリングスが踵に触れるまで下げるという明確な基準があり、十分な深さまでしゃがめているか簡単に分かるが、パワーリフティングスクワットには明確な基準がなく評価が難しい。
どちらのスクワットを行うべきか?
ではいったい『あなた自身』がどちらのスクワットを行うべきか?
それはあなたの目標や能力や行っている競技種目による。
もしあなたがウエイトリフティング競技の選手なら、パワーリフティングスクワットをする必要は全くない。素早い動作でATGスクワットを行うのが良い。なぜならATGスクワットのボトムポジションは、クリーンやスナッチにおいてバーベルをキャッチする体勢と同じだからだ。
もしあなたがサッカーやレスリングやラグビーの選手ならば、ウエイトルームでは深いATGスクワットを行うことを提案したい。スポーツでは多くの保護されていない動きがあるが、部分的な可動域のみでいつもトレーニングしていると、全可動域での動作を余儀なくされた場合に怪我をするだろう。
あなたがパワーリフティング競技の選手ならば、パワーリフティングスクワットを徹底して行うべきだろう。なぜならそれがあなたに必要な全てだからだ。先に述べたように、パワーリフティングスクワットはATGスクワットよりも通常高重量が扱えるようになる。パワーリフティングでは最大限の高重量を扱うことが目標だ。ATGスクワットほど深くしゃがむことはパワーリフティング競技では必要ない。深くしゃがんだところでより高得点が得られるわけではない。ルール上決まった高さまでしゃがんでいるかいないか、それだけだ。
個人的な話だが、著者自身はATGスクワットを好んで行っている。
著者自身はATGスクワットの方がパワーリフティングスクワットよりも高重量を扱えるが、それは多くの人には当てはまらないだろう。
実際の所、このビデオを見ているほとんどの人はパワーリフティング競技の選手ではないだろう。一般的な人か、少しウェイトリフティングをやっている人か、健康増進や体型改善目的の人だろう。
そのような人にはATGスクワットに励むことをお勧めしたい。
深くしゃがむスクワットは生理的な可動域であり、すべての人に生来備わっているはずの能力である。
深くしゃがむと重量が半分になっても実際の仕事量は2倍になる。
350ポンド(約160㎏)の重量を扱っていても半分の可動域でスクワットをするよりも、150ポンド(約70㎏)の重量で深くしゃがむスクワットを行う方がより良い負荷になるだろう。
著者自分がATGスクワットに偏ったお勧めをしているのはわかっている。しかしそれでも良い。
著者自分は深くしゃがむスクワットが好きだ。なぜならそれがよりチャレンジングだからだ。トレーニングにおいてはチャレンジングな方がフィジカルにもメンタルにも良い影響を及ぼす。
著者自身の場合はストロングマン・コンテストの競技において、継続的にATGスクワットを行っていることが良い結果につながっている。
結論に戻ろう。
著者自身はATGスクワットを好んでいるが、それはATGスクワットが唯一の方法であるという意味ではない。
ボディービルディング、ウエイトリフティング、パワーリフティングとそれぞれのチャンピオンの間でも各人のスクワットは大きく異なっている。
個人個人によって最適なスクワットの深さは異なっているのである。
考察
著者自身が述べているようにややATGスクワットに偏った内容ですが、どちらが正解というのにこだわらないという点は非常に大切だと思います。
パワーリフティングスクワットは高重量を扱うことでより強い機械的刺激を与えることができ、またヒップドライブの強化には最適な種目だと思います。
一方、ATGスクワットは膝を大きく曲げ伸ばしする必要があるので、より大腿四頭筋の強化につながりやすいですし、可動域が大きいというのはそれだけ負荷も強いトレーニングにつながるのは著者自身も説明している通りです。
どちらのスタイルのスクワットにも利点があり、一般のトレーニーの場合はやはり両方とも行うのが良いと思います。
個人的には、ATGスクワットメインの日とパワーリフティングスクワットメインの日に分割するか、まずパワーリフティングスクワットを高負荷低回数で行い、神経系のリミッターを外してからその後にウエイトをある程度減らしてATGスクワットで8~12回くらいを3セットほど十分回数をかけて仕上げるというのがお勧めかと思いました。
もちろんこれも一例に過ぎませんのでいろいろな方法を試して自分にとっての最適なルーティーンを探ってみてください。